月夜見 “トリック・オア・トリート?”
         〜大川の向こう

 
衣替えにお月見に、
小学校のと町内会のが合体した秋の大運動会に、
こちらもやはり 小学校の学芸会などなどと。
秋という季節は
カラッといいお日和の中で伸び伸びする行事に最適で。

 「うんどーかいでは、オレ 全部一等賞とったぞ?」
 「そうだったな。」

参ったかと胸を張るんじゃなく、
えへへぇと目許を細め、どこか甘ぁく微笑う坊やだったのは。
大好きな剣豪少年のお兄ちゃんが、
坊やからすりゃ大きい手で“偉い偉い”と頭を撫ぜてくれたから。
学芸会では合唱とそれから、
桃太郎の寸劇に出たルフィで。
主役の桃太郎は台詞がたくさんあったのと、
いちいち場面ごとに
そこに立ってとか こっちへ走って来てとかいう
いわゆる“演技”が難しかったので。
周囲からの推薦もあったらしいが、
ご本人が“無理だ”と男らしくもあっさり辞退し。
それよりも楽チンそうでアドリブが多少利く、
家来のおサルさんの役をしたところ。
ところどこで台詞がつかえた桃太郎をフォローするわ、
鬼の役だった上級生にしがみつき過ぎて泣かしかかるわ、
終わってみれば一番活躍してしまったという、
相変わらずな武勇伝も増えており。(笑)

 「ゾロのがくげーかいも観に行くんだぞ?」
 「らしいな。」

高学年になると、
川向こうの大きい小学校へ通うのが習いの中洲の子供ら。
中学・高校はどうしたって
艀(はしけ)に乗っての通学になるので
それへ馴れるためとも言われていて、
こちらのいが栗頭の小さいお兄ちゃんも、
ルフィと入れ違うよにそっちの学校へ通っておいで。
大町の小学校の学芸会は少し遅めの、
10月末の日曜開催なのだそうで。

 なあなあ、何すんだ?
 見てのお楽しみだ。
 え〜、いいじゃんか教えろよぉ。
 ダーメ。
 ゾロのけち。じゃあサじゃあサ、アメやるから、な?
 それってオレがやったアメじゃんか。
 あれ? そうだっけ?

ピーナツの入った変わり飴は、
ただ甘いのと違って、
舐めてると南京豆のかけらが出て来て面白いと、
秘かにルフィのお気に入り。
とはいえ、少々渋い飴なので、
大町のコンビニには置いてない。
快速が停まる隣り町の駄菓子屋さんまで行かないと
手には入らぬ希少な飴で。
……とはいえ、
道場へ手合わせに来る親戚の人が
土産にと持って来てくれるので、
ゾロのお家の今の菓子鉢には
当たり前に常備されている。
ルフィがこんな渋いものを好きになったのも、
頻繁にお邪魔しては食べてたせいなのだが、
……今はそれもさておいて。

 む〜ん、じゃあじゃあ。
 あのなぁ、ルフィ。

何かないかと一丁前に腕組みをする坊やなのへ、
ほりほりと頭を掻いてたゾロが声をかけ、

 「それよか、お前、
  来週の子供会じゃあ、お芝居するんだってな。」

 「おうっ♪」

いきなりの話題転換に、あっさり釣られた腕白坊ちゃん。
今度はおサルじゃねぇぞ?と、妙なところを念押しし、

 「晩になったらお化けが来るから、
  どうしよかって困ったみんなで、
  じゃあ、こっちもお化けになって
  怖がらせて追い返せばいいんだってゆう劇で♪」

満面の笑みで語ったそれは、
近年あちこちで定番化しつつある、
ハロウィンの説明を兼ねた寸劇。
中洲の子供会で演じて、
劇の中での仮装のまんま、
大人が用意したお茶会になだれ込むらしく。
本来は夜通し起きてて亡者の侵入を阻む行事だが、
子供に夜更かしさせる訳にも行かぬので、
とりあえずの初年度になる今年は
“午後の発表会”どまりになったらしい。
ちなみに、発案者は
剣豪少年の姉君とお友達のナミさんの二人で、
子供たちへ振る舞うお菓子には
川向こうの洋菓子店“バラティエ”の、
若旦那が頑張った品々が提供されるのだとか。

 『ま、ウチでもそのうち
  それなりの菓子を置くだろし。』

今のオーナーであるお祖父さまは
少々頭の固い人だそうなので、
そういう“今時もの”にはなかなか手を広げぬが、
この町に来てから小さな跡取りが妙に積極的になって来たため、
お誕生日とクリスマス以外のケーキは焼かなかったものが、
祭事や行事へも関心を向けつつあるとかで。
カボチャのランタンの形を模したケーキ、
今年は注文されたら出すって言ってたとは、
主に若いお母様がたの間で
楽しげに取り沙汰されてた甘いお知らせ。
勿論のこと、子供たちにとっても、
いかにも大人のついでのような
卓袱台に出してある袋菓子じゃあないし、
既製品の駄菓子でもない。
フルーツドロップをつないだ首飾りみたいなレイだの、
可愛らしいキャンディ包みをされたチョコレートだの、
千歳飴みたいな配色の、棒つき渦巻きキャンディだの。
アニメ映画に出て来そうな、
カラフルでお洒落なお菓子が用意されていると聞いて、
皆して今からドキドキしてもいる。
学芸会の台詞がなかなか覚えられなんだこちらの坊やも、
こちらの催しの寸劇では、
お化けが来るぞどうしようと思い悩む
町の人たちのリーダー役を割り振られたのに、

 こんなこんな すんだぞと、

公園のブランコからポーンっと飛び降りると、
わざわざゾロ兄ちゃんの前で
あっちから来るぞと指差すところや、
どうしようかなぁと腕を組んで考えるポーズなど、
練習の成果をご披露くださったほどであり。
上手だなと褒めてもらって
“にししvv”と嬉しそうに笑ったものの、

「でもな、おまじないを言えないとお菓子は貰えないんだと。」
「おまじない?」

さすが、外国の地蔵盆はそれなりのしきたりがあるんだなと。
こちらさんもまた、
姉君のバタバタしている端々から拾ったらしき蘊蓄で、
そこまでの知識はあったゾロが、
ふ〜んと感心しておれば。
当の坊やは口元を尖らせての不満顔。
小走りに“ぱたたっ”と駆け寄って来て、
聞いて聞いてと言うことにゃ。

 「それがな、何か変なおまじないなんだな。」
 「変?」

  おお。英語なのかも知んねぇけど、
  別に意味なんて知らなくてもいいのよって、ナミが言っててよ。

 「チクタク釣り糸って言うんだって。」
 「………?」

時計みたいな釣り糸なんて、どこが怖いんかなぁ?
ナミはともかく くいな姉ちゃんが間違うはずないし…と。
ちゃんと言えなきゃお菓子が貰えぬとあって、
彼にはなかなかに重大な問題であるらしく。

 「……心配すんな。」
 「ふや?」

う〜んむ〜んと口元尖らせたまんまな王子なのへ、
真ん丸おでこをよしよしと撫ぜると、

 「早口で言えばどうとでも誤魔化せるし、
  そうと聞こえたんならまず間違ってねぇはずだ。」
 「そっかなぁ。」

インフルエンザの予防接種以外、
どんな面倒ごとでもドンと来いと胸を張る坊やが、
こうまで しおしおしかかっているのは
彼の側で身につまされてしまうのか。
大丈夫だと励ましながら、

 “ちょっとでも難癖つけやがったりしやがったなら。”

そんな大人げないことしやがったなら、
それこそ俺が黙ってねぇさと。
ここまでは微笑ましいなと聞いてたお兄ちゃん。
ここに至って、目許に真摯な光が宿っていたりするから。

  ……どんだけ甘やかしているのやら

川原に広がる乾いた茅の、
川風に揺れて鳴る乾いた音がして。
寒い季節はすぐそこだけれど、
一緒にいれば暖ったかいねと、
仲良しさん同士で ふふふと笑い合い。
蜂蜜みたいな金色の陽の中、
お元気に駆け出す影法師が二つ。
早く楽しいお祭りが来るといいですね。


  「でもその前に、ゾロなにすんだ?」
  「〜〜〜〜〜忘れろ。」




  〜Fine〜  12.10.25.


  *はろいんの仮装パーティーもどきを
   開催するらしいですよ、こちらさん。
   きっとマキノさんが腕を振るって
   かわいい魔物に化ける坊やでしょうから、
   お父様もハートをズギュンされるのでしょうね。

   「あああ、こ〜んな可愛いのに年頃になったら嫁に行くのか。」
   「まだ ゆーかっ、バカ親父っ

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